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回復期病棟雑感

1 ことのはじまり

 リハビリ…リハビリテーション中である。ってことは、リバビリをしなけりゃならないことになっちまったというわけだ。わたし的に。
 忘れもしない5月26日だったっけ? …使い古された手口で、笑いを撮とうとしたのではない。そんなセコいことは、この私のプライドが許さない。当日の記憶が、部分的にほころびているようなのだ。いやマジで。

、確かその日は、月が地表近くで大きく見えるスーパームーンと、皆既月食とが同時に見られる極めて珍しい夜だというので、数日前からテレビのニュース番組などでさんざん周知していた。
 で、夕飯が終わってお風呂に入り、ほっとひと息の午後10時10分頃だったと思う。「折角だから噂の天体ショー、ちょいと見ておこうかと思ったわけだ。前から予定を立てていたわけじゃなく、暇だしせっかくだから…的なノリで、およそ2時間遅れの天体ショー見物。このあたりは曇空だから、残念ながら見えないんじゃないかな…などと思いつつ、サンダルを履いて玄関を出、空を見上げようと門のところに近付いた。
 ところで我が家の門灯は無駄に明るい。長い坂を上りきったカーブの先にあるので、友人のS君曰く「バカなクルマの突っ込み防止にはなるだろう」ということである※。で、その明るすぎる門灯のハレーションを防ぐ為に、掌で視界の半分を覆い隠し、薄ぼんやりとした中空を見上げて、「あーあ、月食もスーパームーンもやっぱり見えなかったな」と、リビングに戻るため回れ右をしようと思ったときであろ。
 回れ右の前に、少し後ろへ下がっておこうと、後退りした。ビール350mmLとチリ産ワイン3口ほどで酔っ払っちまったのかこの俺は…と思う間も無く、足がもつれ、石畳の玄関アプローチの上に、我が身を思いっきり叩きつけてしまったのである。
※ このS君自身、山の中でコースアウトして森林に突っ込んだバカなやつなので、変に説得力はある、

 かなりの衝撃だったはずだが、当時の私には「あ、コケちゃった」程度の記憶しかない。しかし起き上がれない。このまま誰にも気づかれなければ、自宅の玄関前で野垂れ死んでしまう。これはきっとネットニュースで話題になるかも…いや、つかの間の脚光のために我が身を犠牲にしたくはない。助けを呼ばなければ。
 リビングでは妻が録画したテレビドラマを見ているはずだ。リビングまで約8メートル。ドラマに夢中になっている彼女の耳に、8メートルの距離を超え、玄関とリビングのドアという二重の障壁を超えて、生死を賭した私の魂の叫びは届くだろうか。
 『おーい、たすけて~。おーい」玄関がガチゃッ。届いた。案外簡単に届くもんだ。「救急車、呼ぼか?」と、妻の声。「そこまでしなくても…」その時点では、自分ではハードなしりもち程度の認識だった。しかし、立ち上がろうにも脚が動かない。「ひょっとしてやばいかも」巣感じて、かっこ悪いけど救急搬送していただくこととになった。
 ところが、その日から1.5週間、僕は病院のベッドに仰向のまま、標本のように動けない日々を送ることになった。レントゲン検査の結果、僕の大腿骨を受け止めている骨盤は見事に砕け散り、手術には大量の輸血が必要らしい。ところが新型コロナの影響で、輸血の供給が遅れているという。

 やっとこさ手術が始まった。といっても、自分は麻酔で眠っていただけなんだが。大腿骨の周囲から下半身の前後2箇所に切り込みを入れ、金属のプレート5枚をビスで止めるという、サイボーグみたいな大掛かりな手術は、15時間に及んだそうだ。
 コロナの影響で、入院患者は家族と会えない。手術後も、仰向け状態の生活は続いた。孤独な標本生活である。ただ、手術前は上体を30度までしか起こせなかったのが、手術後は60度まで起こせるようになった点が、実にありがたかった。
 なんと、それまでスマホしか操作できなかった自分が、パソコンを扱えるようになったのだ。食事もぽとぽとこぼさなくてよくなったし。
 スマホが使えれば十分でしょ?と、今どきの若者は考えるだろう。ところが今どきのおっさんにとって、パソコンは必須の文具…事務ツールなのである。

 術後の治療と観察で、さらに2週間程度の入院。ただでさえ医療ひっ迫のこのご時世だ。他人だったら「ふざけんな!」と罵声のひとつも投げたいところだが、あいにくご当人様である。
 ほんとにこんなときに、すんません。ということで、次回に続いたりする。

by FunatobeRei | 2021-08-30 16:12 | 身辺雑記 | Comments(0)